いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

別れと出会い(幼虫編)

飼っていた幼虫について衝撃の事実がわかった。

 

今朝も娘とベランダに出て、飼っている5匹の幼虫の生存確認を行っていた。どれも元気で相変わらず居心地の良さそうに成長しているようだった。

 

私はそろそろ彼らがカブトなのかクワガタなのか、はっきりさせようと試みた。ネットを調べ、特徴の違いを抑えた上で改めて幼虫を観察してみた。

 

判断に迷う項目はあったが、カブトムシの方に特徴が似ていることがわかった。私は判明したことを喜び、娘や妻に「カブトムシだったよ」と伝えた。

 

娘はとても喜んでいた。しかし妻は冷静な様子で、「本当に?どちらでもないってオチはないの?」と訊いてきた。そんなのあるわけないよ。私はそう笑ったものの、頭には一抹の不安が過った。

 

念のため先ほど参照したサイトを再度確認してみる。参照した事項を改めて読み返していると、更に下へとスクロールできることに気がつく。そこには追加の情報が掲載されていた。

 

『カナブンの幼虫との見分け方』

 

私はベランダへと飛び出し、再度ゲージを開け幼虫たちを観察した。全ての特徴が一致する。私達が飼っていた幼虫達は、カナブンの幼虫だったのだ。

 

私は肩を落としながらその事実を妻と娘に伝えた。妻は「やっぱり」とつぶやき、娘は明らかに落胆していた。図鑑を開いてカナブンの姿を見せてみると、娘は「これ、やだ」と不満を口にした。

 

このままだと成虫まで育てても喜ぶことができない。そう思った私は、捕ってきた場所に戻してあげることを提案した。しかし既に幼虫達に愛着を抱いていた娘は、それは悲しいと泣き出してしまった。

 

しかし、結局は冷静なる話し合いのもと、幼虫をもとの場所へと戻しに行くことに決まった。私たちはゲージをもって、緑地公園へと赴いた。

 

捕獲した場所につくと、幼虫たちを帰すため軽く穴を掘った。そこは枯れ木や木の実等がほどよくブレンドされた腐葉土で、掘り返すと虫や幼虫がボロボロとでてきた。私と娘はゲージを開け、一匹ずつ手に取った後に、土の上へと優しく離していった。

 

「パパ!!あれ!あれみて!!」

 

そのとき娘が突然大声をあげた。彼女の指さす先を見ると、そこにはこれまで見たことのない巨大サイズの幼虫が、ゴロンと横たわっていた。

 

「うわあ」私はあまりの衝撃に情けない声をあげた。異様に大きく、これまで飼っていた幼虫の比ではない。掴むことを躊躇していると、娘がすっと前に出て、その巨大な幼虫をひょいとつまみ上げた。

 

娘に後れを取る形となったが、私もやっと意を決し、娘からそれを受け取る。今朝ネットで調べた特徴と照らし合わせてみると、それはカブトムシの幼虫に違いなかった。なによりサイズが違いすぎて、これまでの幼虫と同じ種別だとは到底思えない。

 

私はそれをゲージに入れ、嬉々として妻に見せに行った。一目みた妻は気持ち悪がり、そんな巨大な幼虫は見たことがないと、私と同じ感想を口にした。

 

ふたたび捕獲場所へと戻ると、そこには立派なゲージを何個ももった男の子ふたりとその父親らしき人がいた。どう見てもカブトムシ飼育の上級者だったので、声をかけ、さきほど捕まえた幼虫を見せた。

 

「これ、カブトムシの幼虫か、わかりますか?」

 

少年と父親が私のゲージを覗き込む。そのサイズを見て確信をもって答えた。「ああ、それはカブトムシですね」。彼らのお墨付きをもらえたことで、晴れてその幼虫がカブトムシであることが確定した。

 

そんなわけで、今日は5匹の小さな幼虫たちを自然に帰しお別れしたが、その代わり大きな幼虫を家へと持ち帰ることとなった。今度はカブトムシの幼虫である。今度こそ、成虫まで大切に育てなければ。

 

それにしても、私はこのサイズの幼虫にこれまで出会ったことがない。ということは、幼少期にたまに見つけては喜んでいた幼虫たちは、どれもカブトやクワガタではなく、カナブンの幼虫だったということになる。二十年越しに判明した、衝撃の事実だ。