いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

変身待ち

なるほど、彼らはこんな気持ちだったのか。

 

カメラが向けられていない側の心境が知れたような気分だった。目の前では引きつづき煌びやかなメロディが鳴り、愛嬌たっぷり、見せ場満載の変身が繰り広げられている。

 

毎回聞いているのですっかり流れを覚えてしまった。今はまだこのパートが済んだとこなので、すべての変身が済むにはまだしばらく時間がかかるだろう。邪魔をしないため、動作も止めて息を潜める。

 

ついに締めとなるメロディが鳴り響いた。決め台詞を唱え、娘のプリキュアへの変身が完了する。やっとカメラが娘のアップから引きの画へと変わる頃だ。私も動作を再開する。手に持った人質のミッキーを荒々しく振りまわし、ドスを利かせた声で、悪者風を吹きちらす。

 

娘にプリキュアの変身アイテムを買ってあげて以来、このような『プリキュアごっこ』は週に何度も繰り広げられている。もちろん私は悪役で、いつも娘がプリキュア役だ。

 

悪さをする私の前に、娘は変身アイテムを握りしめ登場する。私たちが子供の頃とは違い、操作をすると、テレビアニメ同様の声やメロディがアイテムから流れてくる。それに合わせて娘は悦に入りながら、楽しそうに変身するのだった。

 

その変身を悪役として待ち、改めて実感したこと。変身時間がめっちゃくちゃ長い!テレビで見ると盛り上がるので気にもならないが、敵として待つには長すぎる。人質くらいその間に容易に危害を与えられる。でもしない。それが暗黙のお約束だからだ。

 

悪役も空気読んで大変だな。案外いい奴なのかも。娘の痛烈なパンチを喰らいながら、共感を覚えた。