我が家には白雪姫の王子様がいる。娘のことだ。
王子様は、私たちが眠ると目覚めのキスをしてくれる。
昨日も、寝る支度をすませた私たちは、家族3人で布団に横になっていた。
1週間の疲れにより眠気を纏った私と妻とは対照的に、娘はいつもにも増して元気だった。
娘は私たちの周りを愉快げに駆け回り、横たわる私たちに覆い被さって遊んでいた。
私と妻は、娘のおしゃべりに応答し、求められるがままに遊んだ。娘はケタケタと声を上げ、楽しそうに笑っていた。
そんなことを30分ほど続けていた。
すると、ついに睡魔が襲ってきたのか、妻が本格的に眠る体勢へとはいった。そっぽを向いて、目をつむり、静かに呼吸を整えはじめたのである。
そのとき娘は私とじゃれ合っているところだった。しかし視界の端でそんな妻の姿をキャッチしたのか、私の上から飛び降り、トタトタと妻の方へと近寄っていった。
さて、王子様の登場だ。
「まま?まま?」
王子様は顔を近づけながら、妻の意識を確認する。しかし眠る体勢にはいったプリンセスは応答もせず、かたくなに目も開けようとしない。
困り果てた王子様は、ついに得意技を繰り出す。鼻と鼻をくっつけ合わせる“優しいキス”をプリンセスに施すのだ。
「ぢゅっ」
プリンセスは笑いながら目を開けた。というか、目を開けるまで王子様のキスはしつこく続くのである。
プリンセスは「ありがとう」とお礼を言った。王子様は満足げに微笑んでいた。
その様子を見ていた“七人の小人”の端くれ者がいた。私である。
私も王子様からのキスをもらいたかった。
そのため寝たフリをしてみることにした。妻の真似をして、そっぽを向き、目をつむったのである。
しばらくすると、そんな私を見つけたのであろう、王子様がトタトタと近づいてきた。
私は期待に胸を膨らませながらも、ぎゅっと目をつむっていた。
次の瞬間、強い衝撃が胸のあたりに走った。
驚いて目を開けると、そこには王子の仮面を剥いだ娘が、いたずら気な顔を浮かべ、私の横に立っていた。
娘は両手を持ち上げると、私の胸に勢いよく振り下ろした。先ほどの衝撃もどうやらこれらしい。
娘はキャッキャと笑いながら、私の胸を両手で叩いてくる。私はたまらず、寝たフリをやめざるを得なかった。
どうやら、王子様も小人にはキスをしてくれないらしい。
まぁ確かに、物語にもそんなシーンはなかったしね(涙)