いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

お鼻にブチュー

うちの息子の得意技である。

 

腹の上に乗ってきたかと思うと、相手の両頬に手を添え、Sっ気のあるイケメン王子様のような眼差しで真っ直ぐにこちらの瞳を覗き込み、そのままブチューと力強いキスをかましてくる。

 

いや、キスというようなドラマチックなものではない。渾身の力で唇を、その下の歯や硬い歯茎を、私の鼻っ柱に押し当ててくるのだった。

 

いつからか、しばしばそんなことをしてくるようになった。最後の押し当て以外は、本当に愛情あふれる所作で、思わさずうっとりとさえしてしまうこともあるのだが、最後には痛さで夢から覚める。

 

どこかで私と妻のキスを見てその真似をしているのか、彼なりの愛情表現じゃないか、と思って受け入れていたこともあったのだが、最近では単に遊ばれているだけかも、と思い始めてきている。

 

さらにはそこから発展して、口を開け、鼻全体を齧るようなこともしてくるのだ。単に鼻の触感が面白いのかもしれない。される方はたまったもんじゃない。私だけでなく、妻もその被害者の一人である。

 

今日も夕食後にソファで休んでいると、私の上によじ登ってきて鼻頭にブチューをかましてきた。

 

ただ今日は日中において、私も妻もバタバタとしており、どちらも彼に構えずほったらかしにしてしまった。ひとりで上手に過ごしてくれていたのだから、これくらいは耐えてあげなきゃ、そう思った。

 

ゆえに私は息子のなすがままに鼻を差し出し、強烈な痛みを感じながら、涎まみれになったのだった。