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光秀の定理

垣根涼介の『光秀の定理』を読了した。
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この作者の小説は、学生時代によく読んでいた。代表作の『ワイルド・ソウル』や『君たちに明日はない』をはじめ、当時刊行されていたほとんどの作品を読み漁った記憶がある。登場人物や世界観にハードボイルドな雰囲気が漂い、読んでいて男心をくすぐられたものだ。

 

そんな作家が、いつのまにか歴史小説を書いていることを知った。きっかけは今年の本屋大賞のノミネート発表だ。そのひとつに、彼の歴史小説3作目となる『信長の原理』がノミネートされていた。

 

私はすぐに興味をひかれ、過去作品も含めネットで調べた。そしてまずは彼の歴史小説の第1作となる、この『秀光の定理』から読んでみることにしたのである。

 

読み終えた感想としては、率直に面白かった。

 

相変わらず登場人物が格好よく、心掴まれるワイルドな展開に男のロマンを感じさせられた。明智光秀とそれを慕う仲間たちの視点で語られていくのだが、史実を忠実に描くことよりも、創作も入れ込みドラマチックに描くことの方に重きが置かれているように感じた。

 

また読んでいて、戦国時代の武士たちは、世界の規模は違えど、現代のサラリーマンに似ているなぁと感じた。いかに成果を上げ、出世の道を切り拓くか。家族や仲間の為、自分の誇りの為。自らの頭脳と信念で過酷な競争を勝ち抜いていくのだ。

 

むろん彼らはサラリーマンとは違い、本当に“命”を懸けて“闘って”いる。それ故に、尚一層輝いて見えるのだ。

 

ちなみに、タイトルにも繋がる『定理』では、条件付き確率の話がでてくる。物語の序盤からその『定理』が“謎の理”として登場し、終盤に差し掛かったところで遂に(織田信長の眼前にて)その種が明かされるのだ。

 

現代でも通用する確率論なので、とても興味深かった。わかってしまえば単純な理論なのだが、種明かしがされるまで私は気づくことができなかった。そのことからも明らかだが、もしも私が戦国時代に生まれていたとしても、きっと大した出世はできなかったことだろう。

 

さて、今作がとても面白かったので、歴史小説第2作『室町無頼』も読んでみるつもりだ。先日タイミング良く文庫化されたが、そちらもすこぶる評判が良い。

 

ちなみに明智光秀は、2020年大河ドラマの主人公にも決定している。今作で光秀に対しても大変興味をもったので、今から観るのが楽しみだ。