いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

東京出張

IT展示会の視察の為、東京ビッグサイトを訪れた。


品川駅で新幹線を降り、久しぶりに東京の地に降り立つ。エスカレーターを見て、左側に人が立っているのに違和感を感じ、自分はもうすっかり大阪に染まったんだなぁ、と実感をさせられた。


というのも、私は大学から大学院までの6年間は、ここ関東に住んでいたのだ。しかし今や就職し、移り住んだ大阪の歴の方が長くなった。どちらも生まれ育った九州と比べると都会なので、住むまでは若干の怖さもあったのだが、結果としてはどちらも住めば都であった。


駅構内を歩く。通勤帯の時間だったので、駅のトイレでは男子トイレの方に長蛇の列ができていた。これはなかなか珍しい光景だなと、新鮮な気持ちで眺めた。


さて、東京ビッグサイトに着き、『AI・業務自動化展』に入った。同じ職場からは他に3名が来ていた。それぞれ自組織内で、この分野の推進者となっている者達だ。


日本最大級のIT展示会とのことで、広大なスペースには数多くの企業たちが所狭しとブースを並べていた。いくつかの企業はコンパニオンも派遣し、道行く人にノベルティやお菓子を配布していた。


私たちは、午前中は全員でブースを見て回ることにした。私以外のメンバは最新技術に興味があり、また知識も豊富なので、ところどころで足を止め、出展者たちの説明に耳を傾けていた。


それにより、知識も興味も持ち合わせていない私だけが、すたすたと先を歩いてしまう場面が多く見られた。趣味の合わない美術館に入ったときみたいだ、と昔の経験が意味もなく蘇ってきた。


私は展示されている内容ではなく、客寄せで配られるお菓子にばかり興味を惹かれてしまう。しかしこれは仕事だ、となんとか自分に言い聞かせ、「同じお菓子は2度は受け取らない」という厳しいルールを自分に課した。


そんな午前中が終わり、近くのモールに皆で昼食を食べに行った。私は目についたファーストフード店でいいかな、とも思っていたのだが、他のメンバ達の希望でタイ料理屋へと入ることになった。


話をしていると、私以外のメンバが食に対して強い拘りをもっていることがわかり、グルメトークに花を咲かせていた。何だかカルチャーショックを受けてしまった。


様々な国の料理名や具体的な店名が飛び交い、私はただただ感心して耳を傾けていた。ちなみにそこで注文したタイの焼きそばは、食べてみるととても美味しかった。


そして午後になり、私たちはそれぞれに個別行動をとることにした。私もひとりでブースを回った。

 

しかし一周歩いてみても、印象に残るのはノベルティばかりで、肝心の知識は増えていかなかった。しかしこれは仕事だ、と再度己に言い聞かせ、隅のベンチに座り、貰ったばかりのラムネをむしゃむしゃと食べた。


その後も、私は会場図と睨めっこをしながら、ブースからブースを渡り歩いた。たまには出展者とも会話を交わし、いくつかのパンフレットも受け取るに至った。


しかし、ある通路を歩いていたときに、それは起こる。


無意識のうちに、コンパニオンからその日2度目となるカロリーメイトを受け取っていたのである。しまった。そう思った時には、既に私の手にそれが握られていた。


私は戦々恐々としながら、手の中のブツを確認した。すると、それはカロリーメイトのチョコ味であった。午前中に受け取ったのはチーズ味だった。セーフ。自分のルールを破らなかったことに、私は胸を撫で下ろした。


結局、私は夕方4時頃にビッグサイトを後にした。朝10時から滞在していたので、昼食を抜いても5時間は居たことになる。任務は全うしたといっても良いだろう。


そんな風にして、私の東京出張は無事終了した。やれやれ、疲れた。しかし、仕事とはそういうものだ。帰りの新幹線に揺られながら、私は目を細め夕日を眺めた。