いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

結婚式のメンバー

カーソン・マッカラーズ著『結婚式のメンバー』を読了した。翻訳は村上春樹のものだ。
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『村上柴田翻訳堂』の第一弾作品だ。発売時は見送っていたのだが、ここにきて急に読みたくなったので手に取った。当時同時発売だった柴田元幸翻訳『僕の名はアラン』も一緒に購入。

 

12歳の少女が抱える複雑な胸の内を描いた作品である。瑞々しく感受性豊かな文章に心奪われた。女性作家らしいといえばそれまでだが、彼女の文章は、もぎたての果物が目の前で切られたかのようなフレッシュさを感じさせてくれる。果汁のしぶきが飛んできそうなくらいだ。

 

兄の結婚式が決まり、閉塞感を抱えていた少女は自分の人生の転機だと確信する。兄夫婦と共に、私はこのつまらない家を出て行くのだ。彼女はそう心に決める。それが物語の第一章。

 

第二章は結婚式の前日。彼女は見納めのつもりで住み慣れた街を見て回る。出会う人々には兄の結婚式のことを語り、明日には人生が変わるのだと勿体ぶりながらも語る。周りの人からは呆れられながらも、彼女はベッドで横になる。

 

最終章である第三章は最も短い。わずか数行のうちに結婚式が終わり、少女の計画が無残にも散った旨が描かれる。メインであるはずの結婚式を、そのようにすぱっと書き捨てるところに作者のセンスを感じた。自暴自棄になった少女は家を飛びだす。その後、いくつかの顛末が端的に描かれ、物語は淡い余韻を残して終わる。

 

これぞ文学小説という、求めていた通りの読後感を味わうことができた。村上も何度も読み返しているとのことだったが、私も折に触れては読み返しそうだ。女性が読んだら懐かしさ等、より感じ入るところがあるのかもしれない。

 

このような過去の名作を、手に入りやすい文庫という形で新訳出版してくれて本当に有り難く思う。村上、柴田というネームバリューがあってこそなせる業であろう。彼らの文学市場への貢献度は計り知れない。同じシリーズの他の本も興味の湧いたものから読んでみようと思う。