いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

飛沫をあげろ

眼下で娘が手を振っている。

 

私と妻もガラス越しに手を振り返す。ニッコリと笑った娘は前を向き、再びプールを見つめる。順番が回ってくる。彼女はプールサイドに立ち、大きくジャンプする。着水と同時に派手な飛沫が上がる。

 

娘がプールスクールを辞めたいと言い出したのは2週間ほど前のことだ。水の中で目を開けるのが怖いらしく、そのレッスンをするのが嫌で、スイミングに行きたくないと言ってきたのだ。

 

まだ通い始めて4ヶ月。だんだんと水の中で出来ることが増えてきたところだった。妻曰く、多くの子も躓きやすいポイントらしい。確かに目を開けるのは不安だよな。嫌がる娘に私は同情心を抱いた。

 

無理じいするつもりもない。娘が本当に嫌なら辞めさせようかと、妻とも話をはじめた。ただ難関にぶつかるたびに簡単に逃げるような子にはなって欲しくない。できればなんとか克服して通い続けて欲しい、というのが我々の共通の願いであった。

 

そこで私たちはスイミングスクールにありのままを相談することにした。できれば続けたいのだが、嫌がる娘を連れていくのも辛いですと。するとコーチからは、出来る限りのフォローを実施してくれるとの提案と、一回見学に来ることの許可を頂いた。現在コロナで親の見学は原則禁止されているのだ。

 

そして今日、私たちはスクールの見学に赴いた。会社は仕事の都合もついたので年休を取得した。見学時間はわずか10分間だが、特別措置なので文句は言えない。初回以来となる見学だったので、この数ヶ月における娘の成長を見て取ることができた。

 

だいぶ水と親しみ戯れている。同じコースの誰よりも高い打点で飛び込み、誰よりも長く顔をつけることができていた。きっと私たちが見にきたことで、いい所を見せようと張り切ってくれたのだろう。

 

親が見ているからと張り切っている姿はとてもいじらしかった。そんなふうにしてくれるのも何歳までかな。私は物心がついてからは、親に見に来られると何事も思い切りできなかったような覚えがある。

 

プール終わりの娘は、ロビーで私に駆け寄ってきた。私は娘の上達ぶりを褒めた。彼女は嬉しそうに笑い、一緒に通うお友達の方へと駆け戻った。どうやら難関は無事に乗り越えられたようだ。私たちも一安心。これからもどんどん成長してもらいたい。