いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

ネゴシエーター

「ねえパパ、きいて?」

 

娘が真剣な眼差しで見つめてくる。

 

「むずかしいけど、れんしゅーしなきゃ、うまくならないでしょ?だからやろうよ、ね?」

 

私が渋っていると、娘の説得は続く。

 

「じゃあ、パパはずっとできなくてもいいの?どお?いやでしょ?なら、れんしゅーしようよ?」

 

うーん、と口元を緩めながらに唸る私。切実な表情を浮かべた娘が、私の腕をそっと掴む。

 

「いっしょにがんばろ?ね?おねがい」

 

娘のあまりの真剣さに私は渋々と受け入れた。そこまで言うならやろうか。すると娘の表情が崩れる。

 

「まけちゃうかもだけどね、むずかしいから。けど、れんしゅーしないと、じょーずにはならないから。だから、できなくてもいいよ。がんばろ?」

 

やると言ったのに娘の説得がまだ続くので呆れてしまう。何かのスイッチが入ってしまったようだ。

 

「もしできるようになったら、ママにもおしえてもらえる(あげられる)でしょ?」

 

ぽんっと肩をたたく。

 

「きょうは2かいだけでいいからね?れんしゅーがんばろ。いうこときいてね?わかった?」

 

眉毛を曲げ、神妙な表情で言う。

 

「わたしピーチすきだから、たすけようよ。パパもピーチすきでしょ?いっしょに、きょうりょくして、ピーチをクッパからたすけようよ!」

 

終盤ステージまで進んだことでコース難易度が上がったWiiマリオブラザーズ。同じコースで何度もつまずき、私と妻は遂に投げ出してしまった。

 

そのためここ最近は全然やっていなかったのだが、娘はそのゲームがやりたくて仕方なかったようだ。上記のような執拗な説得を経て、ついに私を懐柔し、久々のゲームにありついた。

 

駄々をこねるのではなく、交渉に臨むところが、なかなか大人の攻め方をするようになったものだ。こんな感じで友達のことも好きな遊びに引き込んでいるのだろうか。容易に想像がつき笑ってしまった。