いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

焼きたてのクッキー

ポリポリ。

 

「あ、おいしい」

 

それを聞いて娘がニンマリする。照れたり恥ずかしがったりする時の常で、アゴがぐいっと前に出る。

 

ひとり残業をしていると、ゆっくりと扉が開いて、様子見がちに妻と娘が入ってきた。両手には大皿が乗っている。その上にあるのは手作りクッキーだ。

 

夕食前だった私は、そのかぐわしい香りにお腹をぎゅるりと鳴らせてしまった。勧められるがままにひとつを手に取る。熱々だ。まさに焼き立てホヤホヤ。手作りクッキーの醍醐味である。

 

そっと齧ると、ほのかな甘さが口内に広がった。刺激なんてない。あるのは優しさだけ。仕事中のそのときに、まさに求めていた成分がそれであった。

 

私と一緒に、妻や娘も食べはじめる。おいしい、おいしい、皆でそれぞれに言い合った。私はふたつ目にも手を出し、ふたたびその喜びを噛みしめた。ものの5分ほどだったが、いつもは厳粛な仕事部屋に、柔らかな時間がしばし流れていた。

 

市販品なんか比べものにならないほど美味しい。女子らしさ溢れる素敵な差し入れのおかげで、その後の仕事も頑張れた。いつでもお待ちしております。