いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

いるいないみらい

窪美澄の「いるいないみらい」を読了した。

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少し前に文庫化されたのも知っていたが、図書館の棚で見かけたので借りて読むことにした。窪美澄は女性作家の中では数少ないお気に入りの作家だ。

 

タイトルや帯から想像していたとおり、子供を産む、産まないで悩んでいる複数の夫婦たちを描いた短編集だ。

 

ただ当初の想定では、子供を産む決断をした側と、産まない決断をした側の双方が描かれるのかな、と思っていたのだが、ほとんどがパートナーから子供が欲しいと言われるが本人はそれを望んでいないというパターンだったので、その点は少し意外であった。

 

子供ふたりを、まさに望んだ形で授かることができた私たちからすれば、この手の話は縁がなかったのだが、少しタイミングが異なり、妻との意見の不一致等があれば、同じような悩みに苛まれていたのだろうなと、興味深く読んだ。

 

たしかに今、子供達に囲まれる幸せな日々を過ごしているが、ふとした瞬間に、もし子供がいなくて妻とふたりきりだったらどうなっているだろうか、と考えることがある。

 

大人2人だけなら岩盤浴もいけるし、海外旅行にもふらりと行ける。経済的にももっと贅沢ができるし、きっと今とは価値観も異なっていたに違いない。

 

それでもやっぱり、娘と息子が存在しない未来は、今となっては想像することさえ難しい。いまさら立ち返って選択し直せるとしても、今の道を改めて選ばせてもらうだろう。

 

本書を読み終わり、昨夜歯磨き中の妻に「もし子供を授かれなかったとしたら、養子をもらうことを考えただろうか」と尋ねてみた。

 

彼女は逡巡の後、「考えたんじゃないかなのと答えた。そうか、やっぱりそうでもして子供を育てたいと思ったのか。さらに彼女は、相手側の子供も親ができることを望んでいるのなら、お互いに嬉しいことだしね、と続けた。

 

まあ、実家の親たちは反対してしただろうけど。とも言っていたのだが、妻にはどこか強い意志のようなものが感じられ、きっと現実にそのような状況になっていたら、少なくとも親を求める子供たちに会いにいくくらいはしたかもしれないな、と思った。

 

なんにせよ、やはりテーマがテーマなだけに色々なことに考えを巡らしつつも、愉しく読むことができた。