いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

自転しながら公転する

山本文緒の『自転しながら公転する』を読了。

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本作が著者の遺作だという記事を目にしてこの本のことを知った。彼女の作品は読んだことはなかったが、この美しい装丁に目を奪われ、きっと内容も素晴らしいのだろうという期待感を持った。

 

図書館で予約すること数ヶ月で、ついに手にすることができた。正直なところ、今は恋愛小説を読む気持ちではなかったのだが、読み始めるとその世界観にすんなりと身を沈めることができた。

 

初めて読む作家作品の常ではあるが、最初はいくらか訝りながら読んだ。ただ100ページも読み終えた頃には、著者の書くものに対して信頼を寄せられていた。やっぱり長年活躍されている作家さんは地力があるので、安心して読むことができる。

 

プロローグが将来の場面になっており、いわゆる展開のネタバレになっているのだが、なかなか物語がその未来へと繋がっていかず、どうやってあの未来に繋がるのだろうかという、ある種ミステリ的な要素が、物語を牽引してくれる役割を果たす。

 

そしてエピローグでは、種明かし的にプロローグの続きが描かれ、気持ちよく読者の予想を裏切ってくれる。物語はいわば王道的な展開なのだけれど、この仕掛けがあることにより、他作品とは違ったカタルシスが得られる。

 

また登場人物らの人物造形がリアルで、物語世界にすんなりと入っていける。私たちの日常と地続きにある物語だと感じ、共感を持って読み進めることができるのだ。

 

我が家では現在、経済的な不安を抱えていないものの、家族の病気や突然の事件で、いつそのような不安に苛まれるかもわからない。経済的な不安があると、選択肢も狭まるし、前に進む勇気も持ちづらい。一家の主人としては、なんとしてでも盤石な基盤を作らねば、という想いを強く抱いた。

 

初めて読んだが、良い作家である。惜しい人を亡くした。また興味を引かれたら別作品も手に取り読もう。