いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

アメリカン・マスターピース準古典篇

柴田元幸が手掛けたアンソロジーアメリカン・マスターピース準古典篇』を読了した。
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感銘を受けた前作『古典篇』の続編である。アメリカ文学における名作小説ばかりがセレクションされており、それが年代順に並んでいるので、アメリカの文学史の流れも体感することができる。

 

今作もとても読み応えがあったが、一冊としての満足度という面では前作の方が高かった。今作は見知った作者や作品は多くあったが、生涯のお気に入り、とまで気に入る作品は数えるほどであった。

 

おそらくアメリカ情勢的にも文学的にも、社会問題(黒人問題、戦争、不況等)などのテーマを重要視する傾向が高まり、純粋な物語としての面白さよりも重きを置かれたのではないかと推察した。また文体としても王道的なものだけではなくトリッキーなものも現れ、文学を発展させるための試行錯誤が垣間見れた。

 

そういう意味では、私は純粋に物語が面白く、王道的な文章が好みに合うのであろう。ゆえに、変に小細工をしていない前作『古典篇』でフォーカスした時代の作品が、素直に心に響いたのだと思われる。

 

ただそんな本作にも、特に心奪われた作品があった。イーディス・ウォートンの『ローマ熱』である。この秀逸な短篇小説を読み終わると、同時に唸ってしまった。本当に最後の一行で物語すべてがひっくり返るというカタルシスを味わうことができる。

 

これは私が『お気に入り短篇ベスト10』をつくれば間違いなくランクインする作品だろう。いつか本当に作ってみたいなと思わされた。それほどまでにこの作品の読後感が素晴らしく、その華麗な幕引きにうっとりとしてしまった。この作品を読めただけでも本書を買った意味を見いだせるだろう。

 

さて、この大人気シリーズ、前作の予告では、このあと『現代篇』が出されて終わる予定だったのだが、今作の後書きでは、収録したい作品があまりに多く、次回作として『戦後篇』が追加されることがアナウンスされた。なんとも嬉しい知らせである。

 

ここから更にあともう二冊、このような素晴らしいアンソロジーが味わえるという喜びを噛みしめつつ、次回作が世に出るのを今か今かと心待ちしておきたい。