いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

惑わせの森

キャンプをはって三日目の朝となった。

 

近くで流れる小川のせせらぎが聞こえてくる。見上げると、木々の梢から日光が差し込み、捉えた右目をしばし真っ白な膜で覆った。

 

テントから這い出て靴を履き、足を踏み出すと、パキパキと枯れ枝が音を鳴らした。二歩三歩と歩を進めるたび、小気味よい演奏が続く。

 

私は先に発った連れを探すため、辺りに視線を走らせた。そのとき斜め前方の竹藪から物音が聞こえた。どうやら連れはそこにいるようだ。

 

近づくと姿を捉えた。重たげなリュックを背負った彼女。こちらの物音で気がついたようで、彼女が振り向く。表情から疲れは感じ取れない。

 

「今日はあっちにも行ってみよう」

 

私は彼女に従う。彼女がリュックから地図を取り出すと、それを覗き込める位置へと私は移動した。彼女が指さす地点を確認する。どうやら現在地からはまだ距離がありそうに思えた。

 

「頑張って歩こう、そこにアレがいる」

 

私たちは再び歩き出した。いつのまにか木々が落とす影の輪郭は薄れ、のっぺりとした薄闇が踏み締める地面全体を覆っていた。ここの天候は変わりやすい。私は上着のチャックを首元へと引き上げ、捲り上げていた袖口を下ろした。

 

遠くから鳥の鳴き声が聞こえた。それはなぜか不吉な感覚を帯び、しばらく耳に残った。彼女はずんずんと歩を進める。その足取りに迷いはなく、彼女には鳥の声が聞こえていないようだ。

 

彼女が立ち止まり、ここだ、と呟いた。私たちは視線を合わせ、互いに小さく頷き合う。彼女はリュックを下ろし、そこから魔法のステッキを取り出す。私は腰の鞘から剣を抜き取った。

 

「覚悟しろ、鬼め!」

 

*****

 

ステイホーム。家の中での娘との冒険ごっこを、私は上記のような描写を適宜頭に思い浮かべながら楽しんでいる。きっと娘にも違った景色が見えているのだろう。気分だけでも外へ。