いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

喋る馬

バーナード・マラマッドの『喋る馬』を読了した。

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先月末から読み始めたのだが、仕事が忙しくなり、残りわずかを残してずっと読み止めてしまっていた本。そのため悲しいかな前半の記憶が残っていない。

 

ただ唯一残っているのは、とても読んでいて心地よかったという感覚である。そうそうこんな文学小説に浸りたかったんだ。そんな風に清々しい気持ちになりながら嬉々として読んだことは覚えている。

 

本作は短編集で11篇の物語が収録されている。私も信頼を置いている、名訳者の柴田元幸がセレクトした短編たちなので、さすがに粒ぞろいだ。

 

ふたつほど理解が追いつかない話があったが、残りは文句なしに味わい深く、そのふたつも文章を辿りながら表現力の卓越さには感じ入ることができた。

 

いつも思うが、シンプルな文章ほど奥深い世界を的確に描写し得ることには驚きを感じてしまう。等価交換が成り立っていないようだが、きっとシンプルさには目に見えない強靭さがあるのだろう。その質量が、これまた視認できない世界の深淵さとうまく釣り合うのではないか、そんなことを、ふと考えるに至った。

 

実はこの本、自分の誕生祝いとして購入した。やはり良い本を選んだ。この柴田元幸翻訳叢書シリーズも、所有していないのは気付けば残り一冊になった。そちらもまた、特別なタイミングで購読するに違いない。