いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

母親色の覇気

「“母親色の覇気”みたいなのがあるよね」

 

昨日妻がそんなことを言った。なるほど、うまいことを言うものだ。たしかに私はこれまでの生活の中で、何度も母親ならではのその力が発揮されるところを見てきたような気がする。

 

漫画『ONE PIECE』を読んでない人達の為に一応説明を加えておく。その漫画には、この言葉の引用元となった“覇王色の覇気”という力がでてくる。

 

それは主人公のルフィが身につけている特殊能力のようなもので、資質をもつ選ばれし者達にしか身につけることができない。その覇気を発揮すると、自分よりレベルの低い者たちを一気に戦闘不能にすることができるというものだ。

 

妻の言った“母親色の覇気”というのは、まさにそれと同じようなもので、母親にしか身につかない、自分の娘に対してのみ発揮される特殊な力のことを指している。

 

たとえば、昨日この発言がでたシーンを思い出してみる。お風呂上がりに娘の髪をドライヤーで乾かそうとしていた場面だ。

 

私はドライヤーを握り、おもちゃを用いて何度も娘のことを呼んでいた。しかしそんな私から逃げることをゲーム感覚に面白がる娘は、下着姿で髪も濡れたまま、テーブルの下などに隠れ逃げ回り、なかなか髪を乾かさせてくれなかった。

 

「髪を乾かさないと風邪引くよ」「ブォーしなきゃダメだよ」「髪を乾かしたらヨーグルト食べよ」など、私も言葉の限り誘惑し、なんども抱きかかえ無理矢理ドライヤーのもとに連行したのだが、そのたび娘は私の手からするりと逃げ出し、作業はなかなか進まなかった。

 

ほとほと困り果てていたとき、妻が少し後れてお風呂から上がってきた。私は妻に娘の髪を乾かせなくて困っていることを伝えた。すると妻は一言。


「娘ちゃん、髪乾かさなきゃダメ!」

 

その言葉と共に、おそらくは“母親色の覇気”を発したのであろう。娘は急に真顔になり、自らの足で妻のもとに、ドライヤーをもった私のもとへと歩いてきたのだ。更に妻は続ける。

 

「ほら、パパのところに座って。ブォー終わったらヨーグルト食べよ?」

 

すると娘は嬉しそうに「うんっ」と言い、私の足下にちょこんと座った。そして、その後はおとなしく私に身を委ねてくれたのだった。

 

私は心底この“母親色の覇気”なるものがあると思えてならない。ほぼ同じような言葉を投げかけているにも関わらず、娘にとってはその言葉の響き方が、妻の場合と私の場合でまったく異なるようなのだ。


おそらくは普段からの関係性に依るものであろうとは思うのだが、こちらとしてはなんとも受け入れがたい。だからこそ“母親色の覇気”があるからに違いない、とますます自らに言い聞かせることとなるのだ。

 

さて、今日もそろそろ会社に行く準備をしよう。さきほど私の止め忘れていた目覚ましのせいで娘が一度布団から起き上がっていたが、今では再び眠っている。

 

このブログをはじめ、それまでより1時間ばかり早く起床し、このように文章を書くようになって今日で早5日目だ。いつも布団ですやすやと眠っている娘の姿を見つめながら、私はひとりキーボードを叩いている。

 

今ではこの作業が、私にとってはとても大切なもののひとつとなった。これからもささやかなる日常を、できる限り丁寧に書き綴っていきたいなと思っている。

 

そしていつか、“父親色の覇気”なるものがあり、もしもそれを私が習得できる時がきたならば、それについてもここで自慢げに書かせてもらいたいと思っている。

 

まぁ、そもそも私にその資質があればの話だけれども。