垣根涼介の『信長の原理』を読了した。
直木賞候補になったときから文庫化されるのを待ち望んでいた。ただ予想以上に早い文庫化だった。大河ドラマ『麒麟がくる』が終わらないうちに発売に踏み切ったのではないか。
さて、そんな高い期待を寄せていた本作だが、結論から言うと最高に面白かった。垣根が書いた歴史小説は全て読んできたが、現時点で最高傑作だろう。物語の面白さでは3作どれもが甲乙付けがたいのだが、本作の主人公が織田信長という点で、読む楽しさが他よりも高くなっている。
しかし、書き尽くされた有名人、信長を題材によくここまで新鮮な楽しさを纏わせられるものだ。史実はそのままに「信長は実は“ある原理”の究明に取り憑かれ、それを元に行動していた」という新しいアイデアを加え、最高のエンターテイメントに仕上げている。その力量たるや。
信長はもちろん、秀吉、光秀、柴田、丹羽、佐久間といった有力家臣たちにも視点が切り替わり、一人一人の人物が鮮やかに描かれていく。それぞれに性格や考え方も異なり面白く、そこに人間としての多様な生き様が感じとれる。
組織形成などビジネス書としての読まれ方も推奨されているようだが、それもわかる。組織を束ねる側、組織に属する側、それぞれの立場での思いやそのすれ違いがとても勉強になる。
私はこの物語を読んでふたつの気づきを得た。
ひとつは組織の中で頭角を現し、さらには長年第一線で活躍していくには、何よりモチベーションを保ち続けることが第一である、ということだ。実力があっても気持ちが続かなくなった者から落ちていく。これは会社に属していても同じことを感じる。向上心が何よりも大切だ。
ふたつめは、組織を率いる側と、属する側の最大の違いは、自らの主人は自分だと思える傲慢さ、度胸があるかどうかだということだ。誰かの為だけに働く者には何も変えられない。
たとえ誰かから与えられた仕事であっても、それを我がことだと捉え、それを自分のため、成し遂げたい野望のため、どれだけ真剣に取り組めるか。そこにこそ、大きなことを為せる者と、それ以外の者との違いがあるように感じた。
そして、これらふたつの気づきは繋がっている。
目の前にある取り組むべき事柄を、我がこととして捉えて取り組めた者は、モチベーションを維持し続けることができるであろう。つまり、どの立場であっても、自分を“主人公”だと信じて人生を生きるている者がやはり強いのである。
これは自分自身にも多分に言い聞かせている。来週から心改めて、自分のための仕事をしよう。