いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

逃さない

べたっ!べたっ!べたっ!べたっ!

 

威勢の良い音に何事かと振り返ると、リビングと廊下をつなぐドアが開いたままだった。今夜もハンターはその一瞬の隙を見逃さず、一心不乱にこちらへと爆進を続けていた。

 

壁の外に出たい。彼の瞳にはエレン・イェーガーにも負けない信念の焔が灯っていた。この鳥籠を是が非でも脱出する。そして俺は自由になるんだ!

 

1日のうちほとんどをリビングで過ごす0歳の息子は、そこから外へ飛び出るチャンスを、いつでも固唾を飲んで狙っている。

 

脱出経路はふたつ。廊下へとつながる扉と、ベランダへ出られるガラス戸である。彼はそれらが開かれる音を察知すると、何をしてても放り出し(たいていは何かを齧っている)、大きな音を立てハイハイで出口へと向かい突進してくる。

 

ふんっ、ふんっ、と鼻息を鳴らし、大人の早歩きにも負けないほどのスピードで、猪突猛進で彼は向かってくる。運良く出口をくぐり抜けると、彼は開かれた世界を前に、目を爛々に輝かせるのであった。

 

しかし大抵の場合は、その物音の大きさから大人に気づかれ、扉を閉められるか、抱っこして元の場所へと運搬されてしまう。そんなとき、彼が漂わす哀愁といったら…。閉まったドアに身体を突っ伏し、ガラスから向こうを覗いては、「ボクも出してくれよぉ」と嘆いているようなのであった。

 

そんな彼に同情し、たまにわざと扉を開け放つ時がある。そんなとき彼は颯爽と廊下やベランダへと飛び出してくる。外に出るようになった暁には、ひとり勝手に飛び出し、いなくなっちゃうんだろうな。