いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

翻訳教室

柴田元幸の『翻訳教室』を読了した。

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柴田が名誉教授を務める東京大学における翻訳の講義を収録した本だ。題材とされる作家の趣味も合い終始楽しく読めた。一方的な講義形式ではなく、生徒たちとのディスカッションがメインである。

 

驚いたのは生徒たちの質の高さだ。さすが東大生。それも翻訳を学びたくて自ら講義を取っている人が多いようで、誰もが積極的に発言し、皆の意見で訳文が徐々に洗練されていく様には感動を覚えた。

 

それにしても、翻訳とはなんとストイックな作業だろうか。作家の真意を粘り強く掬い上げ、読み手への配慮も加えながら、言葉に対して誠実に向き合うことが求められる。そこには熱意や根気が必要であり、そもそも好きでなければできないだろう。

 

理系として大学院まで通った身ではあるのだが、今更ながら、文系を専攻してこんな講義に参加してみたかったなと羨ましく思った。

 

海外文学や翻訳、そして柴田元幸に対して、もっと早くに興味関心を持てていれば…。それこそ『ドラゴン桜』のように、一念発起して東大受験にも挑む気持ちになったやもしれない。

 

とはいえ、過去のことをいくら嘆いても仕方がない。このように本を通して仮想体験ができるだけでもありがたいと思わなければ。翻訳への興味は増すばかりだ。引き続き、関連図書を読んでいきたい。