いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

蠕動で渉れ、汚泥の川を

西村賢太の『蠕動で渉れ、汚泥の川を』を読了した。

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ふたたび西村作品に戻ってきた。改めて他作者の手掛けた美文調の作品を読んでからここに戻ってくると、彼の作品の魅力が理解できる。

 

実に映像性に富んだ文章なのだ。文章を辿ると遅延なしに映像が浮かんでくる。ゆえに没入感が高く、映画を楽しむように主人公の物語を鑑賞できるのだった。

 

その際に思い描く映像は、実際に映画化された『苦役列車』に似た雰囲気を帯びている。私と西村作品の最初の出会いであり、大きなインパクトと深い余韻を残した。

 

今作は著者二作目となる長編小説で、時系列は一旦過去へと戻り、著者の分身である主人公、貫多が17歳のときの一幕だ。初めて飲食店のバイトを始め、いっときの充実感を覚えながらも、案の定、自業自得によって瓦解をもたらしてしまうのであった。

 

毎度おなじみのパターンなのだが、どうしてこうも飽きずに読めるのだろう。特にこうして忙しくしている日々の合間での読書には合っているようで、ほどよい現実逃避と癒しをもたらしてくれているのだった。

 

厚さのわりにすらすらと読みきれるのも西村作品の魅力だ。次に借りている作品は短編集。時系列はふたたび中年時に戻るようなので、そちらも楽しみである。