いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

棺に跨がる

西村賢太の『棺に跨がる』を読了した。

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先に読んだ『寒灯』に続く作品。出版社は異なるのだが、前作からの続きとして読むことができる。

 

著者の投影である主人公、貫多と恋人の秋恵との破局直前の日々を描いた短編集。前作から、貫多の行き過ぎた言動をヒヤヒヤしながら読んでいたのだが、ついに懐の深い秋恵にも限界が訪れることとなる。

 

近く破局が訪れることは、前作の最終話において既に分かっていたのだが、それでも、ふたりの関係が壊れゆく様は、第三者として読んでいるだけにも関わらず、心苦しいものがあった。

 

暴言までなら百歩譲ったとしても、暴力をしてしまってはそりゃあかんよ。しかも相手を病院通いにするだなんて。それなのに貫多はあくまで自己保身に走り、秋恵に対する本当の意味での気遣いは皆無である。

 

読んでいて本当に辛かった。貫多の両肩を思いっきり揺さぶって、彼に説教をかましたい気持ちになった。もちろん、そんなことはできないし、できたとしても貫多が私のような人間の言葉を、耳に入れてくれるわけもないのだけれど。

 

そんな重苦しい心弾まない内容なのに、著者の文学性に満ちた筆致で語られると、とても面白く読めてしまう。前作に引き続きページが止まらず、わずか数時間ほどで読み終えた。

 

これは貫多のその後も追い続ける他あるまい。途中から読み始めてしまったが、このまま以降の作品を辿ろう。そして最新刊までを読み終えたら、今度はゆっくりと第一作から辿り直そう。エッセイも読まねば。