いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

夜更けの川に落葉は流れて

西村賢太の『夜更けの川に落葉は流れて』読了。

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著者の作品も、小説の方は残りわずかになってきた。彼の死後も追悼の意味合いでいくつかの新刊が世に出てきたが、それも限りはあるだろう。寂しい限りだ。

 

さて、本作では20代前半の貫多が(巻末に少し50間際の現代の姿も登場するが)描かれる。10代の頃からは一転、同級生たちが社会人になったという事実も受け、人生の落伍者の押印を自らでも押しているような精神状態にある。

 

30代の私から見れば、20代前半なんてまだまだ若いと思うのだが、10代から働いている彼からすればそのように思うのかもしれないと、考えるに至った。かといって残りの人生も長い。さぞかし辛い心境だったであろう。

 

それでも性格に難のある彼は、ことごとく自業自得の失敗を繰り返す。そのせいで好条件のバイト環境も失い、久方ぶりに付き合いを得られた女性にも逃げられてしまう。さらには好みのラーメン屋にも入れなくなり、その確執は現代にまで尾を引いている。

 

味方を作らないまでも、せめて敵だけは作らないように心掛ければ、もしかしたらもう少しはマシな青春時代を送れたに違いなかろう。ただそれができない性格だからこそ、彼を彼たらしめているともいうのだが。

 

おそらく、これらの作品は二度は読み返さないと思われるので、残りの作品も心して読もうと思っている。