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文学パパが綴るかけがえのない日常

デデデデ

通称『デデデデ』という漫画を衝動買いした。

 

正式タイトルは『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』というもので、浅野いにおによる作品である。

 

きっかけはお盆期間にふと漫画が読みたくなったことだ。そのとき昔読んでいた浅野いにおの画風を思いだし、なんなら画集でも買おうかと思うほど、彼の漫画が無性に読みたくなった。

 

浅野いにおは、映画化もされた『ソラニン』や『おやすみプンプン』などの作者である。一部では“サブカル厨二病御用達作家”などと揶揄されることもある彼なのだが、今の心境的になのか、何故か彼の作品に惹かれたのであった。

 

最近ではすっかり読んでいなかったので、どの作品を買うかを調べることにした。そのうち、最新長篇で今も連載中である本作『デデデデ』に行き着いた。そして意を決して、現時点で出ている全9巻を大人買いするに至ったのである。

 

全巻読み終えてどハマりした。『デデデデ』は今まさに読みたいと思っていた作品そのものであった。是非妻にも読んで欲しいと思うので、『デデデデ』の魅力について書いてみたい。

 

まず設定が面白い。3年前、突如東京に巨大な空飛ぶ円盤が襲来。円盤は今でも東京の上空に停滞しているが、国民達はそれにすっかり慣れ、円盤の下で変わらぬ日常を送っているのだ。
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もちろん未曾有の事態として国家は対応を続けている。想定外の災害に直面した政界の対応描写はとてもリアルで、映画『シンゴジラ』にも通ずる面白さを感じた。

 

日本は国防という大義名分のもと兵器開発を堂々と行い、それにより莫大なる利益を得るまでに至る。いつしか国家は円盤の“侵略者”たちを利用し、国際的な地位向上を画策するようになるのだった。国際情勢は過激化の一途を辿る。

 

メディアを使い国民を操り、都合の悪い事実は芸能スキャンダルをつくって揉み消す。ここらへんは非常に社会風刺がきいている。一方国民達の無責任な反応もとてもリアルに描かれる。

 

作者は、東日本大震災の状況をもとにこの作品を書き始めたと思われるが、今のコロナの状況ともこれが非常に重なるのであった。今読んで面白いと思うのは、そのせいもあるのだろう。

 

それらが浅野いにおによる高い画力で描かれていく。デジタルとアナログを融合した最先端の漫画描写は、これでもかというほど精密に書き込まれ、私たちの没入感を高めてくれている。

 

そして最新巻で明かされた、とんでもないSF設定には更に驚かされることとなった。その真実を知った上で1巻から読み返すと、まったく異なる感情がわき上がってくるのであった。

 

まだこの作品は連載中で完結はしていない。これから更に怒濤の展開が期待されるので、それを愉しみに最後まで見守っていきたい所存だ。

 

と、ここまでは“硬派“といえる部分の魅力のみを語ってきたが、この作品の魅力はなんといっても他にある。可愛らしいキャラクターたちだ。

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写実的な背景に溶け込むのは、敢えてデフォルメされた漫画チックなキャラクターたちだ。主人公は女子学生の仲良しグループで、人類滅亡の危機とは対照的な、彼女らの平々凡々な愛くるしい日常が淡々と描かれていく。

 

教室の隅っこで妙に盛り上がっていたちょっと地味めの女子グループ。まさにそのような風情の彼女らは、ひとりひとりが個性的で、それぞれに異なる、生き生きとした魅力を備えている。

 

一見すると、なんでこんなに性格の違うメンバが仲良くなったんだ、と思ってしまうのだが、妻が大学時代に属していたメンバと会ったときも同じ感想を抱いたので、女子の世界では現実でもそのようなことがあるのだろうと思う。

 

彼女らの会話の多くはぶっとんで、とてもくだらないものばかりだ。それでも、なんだかんだ女の子の一面をもっていて、健気さと可愛らしさが随所で顔を覗かせるのがたまらなく愛おしい。

 

作者も珍しくキャラクターたちに入れ込んでいるようで、この物語をいつまでも描き続けたいのだと、終焉に向かうことを残念がっていた。

 

とにかく社会派SF作品としてのストーリーの緻密さと、日常系漫画の癒やし要素が両立された、唯一無二の魅力を持った作品だと思う。妻が帰ったら是非とも読ませて一緒に語りたい。